本日は日経電子版の記事「入試問題でわかる名門中が求める子ども『大阪星光学院』」の記事をご紹介します。入試問題にこれほど学校の特質が表れるものか…と興味深い内容でした。前回ご紹介した「東大寺学園」の入試問題とは対極に近いです。早速、記事に掲載されている大阪星光の入試問題をご紹介します。
2013年理科の大問1です。太郎君が身の回りの植物の名前を調べるために観察用紙をつくったという設定です。観察用紙には、
- 植物のスケッチ
- 葉のなりたち(1枚の葉が小さな葉にわかれているかどうか)
- 葉のふちのようす
- 葉の葉脈のようす
- 葉のつき方(葉が茎についている様子)
の5点について観察の結果を記録しました。
下の表は、太郎君が調べた5種類の植物の1~5についてまとめたものです。表の<1>~<5>に入る植物を、上の1~5から選び、記号で答えなさい。また、それらの特ちょうを示した空らんを記号でうめなさい。
登場する植物はどれも身近に観察できる植物ですが、植物の名称などの予備知識は一切問われていません。「先入観なく、物事を素直に見る力を試しています」と大阪星光の先生は述べられています。
問題の考え方です。
<1>の葉脈のようすは斜線になっていることから、葉脈が描かれていないCが該当するのではと推測できます。<1>の葉の付き方は、茎の1ケ所から複数の葉が出ていることでCと一致します。<1>=Cの可能性が高いです。
<2>の葉は、大きな1枚で、周囲はギザギザして、葉の付き方は左右交互です。該当するのはAかEです。
<3>の葉は、1枚で、周囲はなめらか、葉脈の走る方向は一定です。これに該当するのはBだけです。
<4>は、葉のなりたちしかヒントがないので、後回しにします。
<5>は、1枚の葉で、周囲はギザギザ、葉の付き方は左右対称です。これに該当するのはDです。
以上から、<1>=C, <3>=B, <5>=Dです。AとEの見分け方は、<4>の葉の付き方が1枚の葉が小さな葉に分かれていることに注目します。この特徴に近いのはEです。したがって、<2>=A, <4>=Eが解答です。
問2:太郎君の観察用紙にない、植物を見分けるための重要な、外から見てわかる特ちょう1つを、5文字以内で答えなさい。
解説:「外から見て」をどう解釈するかがポイントです。「根の形」は外からは見えませんが、採点段階では正解とされました。模範解答は「花の形」「花の色」「茎の伸び方」「花弁の枚数」など、どれでも正解です。どういうところに注目すれば、植物の違いがわかるかと問うことが、この問題の趣旨です。
記事では理科の問題がもう1問紹介されていますが、ここでは掲載を割愛します。先生のコメントです。「うちの理科の問題は、知識ではなく、実験・観察・考察の力を示す問題です。この問題は観察と考察の問題でしたね。手書きのスケッチを見ながら、試験会場で観察をしてもらうようなものです。」
記事の解説を詠めば、「なんだ、それほど難しい問題ではないね」と感じられるかもしれませんが、入試本番に今まで見たことがないこのようなパターンの問題が出た時、これを数分で解けるお子様はどのくらいいらっしゃるでしょうか。焦らず、落ち着いて、条件1つずつを吟味し、分かりやすいところからつぶしていく課程は、普段の生活を含む、理科以外の能力が大きく問われます。最難関七校の中では比較的チャレンジしやすい星光ですが、なめてかかると残念な結果になることはこの問題傾向で推測できます。
大阪星光の特徴として、学校所有の校外施設(長野県と和歌山県)での合宿が6年間で60泊あります。高3での合宿はほぼないと思いますので、年間2~3回の合宿に全員が参加すると思われます。校外施設では、試験問題にあるような植物の観察やスケッチ、海の生物の観察も行います。先生のコメントは続きます。
「学校としては、先入観なく、物事を素直に見ることができる生徒を育てたいという思いがあります。しかし教師の知識や指導力に頼るだけでは限界があります。最も効果的なのは『本物を見せること』であると考え、2つの校外施設を作った経緯があります。本物と触れ合う中で、素直なものの見方を身に付けてほしいと考えています。」
先生のコメントを拝見するだけで、大阪星光の教育方針は極めてアナログであることが分かります。自前で自然豊かな場所に校外施設を設けて、学年全体(または一部)で合宿生活を年に何度も実施する。そこで、植物や海の生物を観察したり、スケッチをする。勉強もするでしょうが、調理実習をしたり、夜間にはキャンプファイヤーをしたり、夏には、長野県の地の利を生かして登山も実施されます。中学3年間では縦走を含めた山登りの回数が極めて多いことが学校のウェブサイトからも分かります。受験勉強で体が鈍った男子にはちょうどよい運動の機会です。
この教育方針は昔ながらの「ザ・男子校」で、保護者様からの信頼は高く、大阪府下では人気・実績ともにナンバー1の私立中学校といえます。アナログで泥くさい教育方針である一方、理科の入試問題にみられるような緻密で論理的な思考ができるお子様が求められます。
記事では紹介されませんでしたが、算数は基本的な内容を完璧に理解できているかが問われます。最難関校の中では算数の個々の問題の難易度は高い方ではありませんが、合格には最低でも8割、できれば9割近い正解率が求められます。大問1つの間違いで合格ラインに到達できない可能性があり、速さ、正確さも求められます。社会の問題は極めて常識的ですが、平均点は決して高くはありません(たしか50点台)。公民の出題割合は低く、地理と歴史の広範囲に渡る深い知識が求められます。
入試問題から分析すると、大阪星光は、素直で、常識的で、バランスのよい、鋭い観察力と思考力を持つ、集団生活に順応可能な男子を求めていることが推測できます。飛びぬけた天才ではなく、図形でいうと正二十角形のような、どんな環境でも順応できるお子様です。おそらく、社会に出た後もうまく世の中を渡れる人材を多く輩出する学校ではないでしょうか。
浜学園の日曜志望校別特訓では「星光・東大寺コース」の設定が多く、入試日程も重複していないことから、両校を受験するお子様は非常に多いです。両方合格すれば東大寺に進学し、東大寺が残念であれば星光に進学する選択をされるお子様が多いですが、両校の校風や教育方針は非常に異なります。
二段飛ばしでハイレベルなところを目指させる東大寺にきめ細やかな勉強のフォローを求めるのは難しいでしょうし、集団生活を重んじて素直なお子様を求める大阪星光で我が道を行く行動は受け入れてもらえないかもしれません。両校をご検討中の保護者様は、お子様の気質と学校の特徴が合うかどうか、学校説明会を通じて十分にご検討いただきたいです。
やや尖がり気味で、集団生活が苦手、素直さに欠けるお子様は、大阪星光での学生生活に窮屈さを感じるかもしれません。学校の教育方針と合致する男のお子様であれば、最高の環境の下で充実した学生生活が送れると思います。6年間の合宿を中心とする学生生活の中で、卒業後も交流できる友人ができることでしょう。これは大きな財産です。
大阪星光では、経営母体はキリスト教・サレジオ教会の教え「世の光となる」「喜びの心をもつ」ことが折に触れて説かれます。卒業生の多数が医学部に進学し、医師を目指す中で、これらの教えが真に心に響くのは、社会に出てからでしょう。
東大寺と星光両校の入試問題の紹介記事は、非常に多くのことを考えさせられました。学校に染まることができるのであれば、どちらの中学を選択されても、立派なお子様に成長されることは間違いないでしょう。どちらの学校も安心してお子様を預けられる、しっかりした学校です。大学の進学実績も素晴らしいです。
入試問題の分析で、学校の方針が分かることが再確認できる内容でした。関東圏の中学校でも大人がうなるような素晴らしい問題を出題する学校がたくさんあります。折に触れてご紹介していきたいと思います。
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